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書評『お客様が集まる!士業のための文章術』:司法書士、税理士、行政書士、社会保険労務士…士業には文章力が必須

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昔に比べて届出が楽になった

インターネットのおかげで役所への届け出がとても簡単になりました。

かつては届け出をしようと思ったらまず様式を役所へ取りにいくところから始まっていたわけです。離れたところに住んでいるとそれだけでめちゃくちゃ面倒。

で、様式に必要なことを書いて役所に持っていくと、窓口の対応が感じ悪いことこのうえない。無駄に偉そうだった。登記所なんか素人が登記しにいくと「司法書士ついてないなら受けつけねえ、帰れ」とか普通に言ってたらしい(あくまで伝聞)。

 翻って現在ですが、本当にユーザーフレンドリーになったと思いますよ、役所。
各種様式はオンラインでダウンロードできるようになりましたし。なんなら電子申請でもOK。

 窓口の対応もだいぶ親切になったんじゃないでしょうか。

ぼくは以前(士業補助者時代)合同会社を設立したことがあるのですが、不明点を法務局の相談コーナーで何度か教えてもらって、独力で登記することができました。相談コーナーの相談員の方(おそらく60代後半の男性、法務局OBと思われる)がむちゃくちゃ親切で、司法書士に高額の費用払うのがバカらしくなるレベルでしたね。もちろんぼくが法人登記について事前に書籍やネットなどである程度知識を仕入れていたので相談がスムーズにいったというのもあるでしょうが。そのへんの労力が惜しいなら司法書士に頼んだほうがいいと思います。

(注:とはいうものの偉そうな役人はいまだに結構いるので要注意。嘘ついてきたり不勉強でいい加減なことを言ってくる人もけっこう見受けられる。感じが良い人はだいたい非常勤、非正規雇用職員だったりするのがね…)

なぜ士業に文章力が必要なのか?

 こういう状況ですから、士業(司法書士、税理士、行政書士社会保険労務士など)は、その存在意義が問われています。
ただ書類書いて出すだけなら、専門家に頼まなくたって自力でできてしまうわけですから。

 でも、いくら頑張れば自力でできるからといって、素人が届出書類作るのは手間と時間がかかる。本業がおろそかになりますし。

経験とノウハウのある専門職=士業にお願いしちゃったほうが結果的にお得、というケースが多いと思われます。

 そこで士業側としては「届出って簡単そうでいてけっこうややこしいですよ~」「わたしらにまかせちゃえば楽ですよ~」「速くて確実でメリットありありですよ~」とお客さんにわかりやすくプレゼンして仕事を確保したい。

 そこで必要になるのが文章力です。お客さんに自分を使ってもらうことのメリットをわかりやすく伝えなければならない。SNSや自分のウェブサイトで魅力的な文章を書かなくてはならない。

 また、そうして引っ張ってきたお客さんに対して、複雑難解なもろもろの制度をわかりやすく噛み砕いて説明しなくてはならない。

 さらに、届出書類は提出先の役所にとっても理解しやすいものでなくてはならない。役所は文書主義。依頼者の意図をわかりやすく文書に落とし込む文章力がここでも必要になります。

 このように、士業の仕事には文章力が必要不可欠といえるでしょう。

 しかし、だいたいにして士業の資格とるような人は(自分も含めて)営業力とかコミュニケーション力に問題があるケースが多い。

ということで、士業に必要な文章力をやしなうべく、この本を読んだ次第(いまは士業に従事してないけど、資格は持ってるし、開業資金さえ貯められれば…)。

士業の方にはもちろん、行政や福祉関係従事者にもおすすめ

この本は、士業(弁護士、司法書士、税理士、行政書士社会保険労務士、FP、宅建士が念頭におかれている)をメインの読者として想定しています。

士業以外でも「なんらかの知識を売っている」「難しいことを平易に知らせる」「役所に文書を出す必要がある」人にとっては有用な本ではないかと思います(行政、福祉関係の人など)。

士業に必要なのは「お客さんにわかりやすい文章」と「役所の人が理解しやすい文章」の2つの書き方

 この本では、士業には2つの文章を書く能力が必要と説かれています。

  • お客さんにわかりやすい文章
  • 役所の人が理解しやすい文章

お客さんにわかりやすい文章のテクニック

「お客さんにわかりやすい文章」の書き方については、以下のテクニックが紹介されています。

【漢字を減らす】
文章のなかの漢字の使用率を3~5割にする
(漢字使用率チェッカーも紹介されています)

【一文を短くする】
人間が短期的に情報を保持できる時間は3秒といわれている。
1秒間に読むことができるのは10~13字程度なので、一文は10~13字×3秒=30~39字を目安に。
(法律や制度の名称だけで30字近くになることもあるので、その場合は一文65字以内に収めたい)

【箇条書きの活用】
文中に「又は」「あるいは」「及び」「並びに」「~や、~」「~と、~」「~の場合は」「~のときは」「~については」の語がある場合や、複数の結果・数値が書かれている場合は、文を箇条書きにする。

【漢語調・文語調の表現をしない】
「申請日現在において」 → 「申請日現在、」に置き換える
「相続に係る手続き」 → 「相続の手続き」に置き換える
「午後3時より開始します」 → 「午後3時から開始します」に置き換える

【名詞に「する」をくっつけて動詞化した表現をしない】
「記載する」 → 「書く」に置き換える
「該当する」 → 「当てはまる」に置き換える
「割愛する」 → 「省く」に置き換える

また、文章構成は「起承転結」ではなく「序論・本論・結論」が推奨されています。

「パラグラフ・ライティング」と「1パラグラフ1トピックの原則」「PREP法」「6W3H1M」なども紹介されています。

PREP法

まず結論を提示し、本論の部分でその理由と具体的な例を挙げる文章構成法。文章を構成する4つの要素の頭文字をとったもの。

  • P : Point (結論)
  • R : Reason(理由)
  • E : Example(例示)または Episode(事例)
  • P : Point(結論)

 

6W3H1M

ビジネス文書で漏れなく情報を伝えるために記載すべき事項

6W

  1. When(いつ)
  2. Where(どこで)
  3. Who(誰が)
  4. What(何を)
  5. Whom(誰に)
  6. Why(どうして)

 

3H

  1. How(どのように)
  2. How much(いくら)
  3. How many(いくつ)

 

1M

  1. Message(相手にどうしてほしいのか)

役所の人が理解しやすい、使いやすい文章

「お客さんにわかりやすい文章」であれば、同時に「役所の人が理解しやすい文章」にもほぼなっているはずですが、さらに突っ込んだテクニックが書かれています。

【役所の「文書管理事務規程」に従う】
「文書管理事務規程」などに文書の記載方法が明記されていることが多いのでそれに従う。「法令による漢字使用等について」「公用文作成の要領」も参照。

【「お役所言葉」を使う】
「お役所言葉」(=行政特有の用語)はお客さん向けに使うべきではないが、役所に対しては積極的に使う。役所の人は慣れている。

【専門用語の説明を入れる】
「お役所言葉」とは逆に、役所の職員はお客さんの普段使っている専門用語については不案内なことが多い。注釈をつける。

この本では「法令文」「公用文」と「広報文」の違いについても触れています。

「法令文」「公用文」「広報文」を厳密に分類するのは難しいのですが、おおむね以下のようになります。

  • 法令文 : 憲法、法律、政令、省令
  • 公用文 : 条例、規則、規程、起案、通知
  • 広報文 : 市報・区報、チラシ・ポスター、ニュースリリース、公式サイト

公用文では「または」は「又は」、「もしくは」は「若しくは」と書くように規定されています。

しかし、広報文にはそのような規定はありません。「若しくは」より「もしくは」のほうが読みやすいし、わかりやすいですよね。

また、公用文では「届出」ですが、広報文では「届け出」と書いたほうが理解しやすいとされています。

「法令文」「公用文」「広報文」の違いを理解し、提出先や用途によって用語を使い分ければ役所の人に「こいつ、わかっているな」と思われるのでは。

著者は地方自治体(中野区役所)に勤務していたことがあり、このあたりの記述には非常に信頼がおけます。

士業のメールの書き方、ウェブ文章の書き方

メールの書き方についての記述もあります。

それこそビジネスメールの書き方については膨大な数の書籍が出版されていますので、そちらをあたれば済んでしまうのですが、この本でも必要なことは網羅されています。
「Re:をいくつまでなら許容するか」とか「メールの自動振り分け」とかは、まあググれば必要な知識は得られてしまうのですが。

【タイトルは具体的に】
「運用利率の規制改定について」 → 「運用利率が1.5%から1.0%に」のように具体的に
「~について」「~に関して」「~の件」はすべて具体的に書き直す

【こちらから選択肢を提示】
予定を合わせるとき、アポイントメントをとるときは「いつがいいですか?」ではなくこちらからいくつか具体的な日時を提示する

【日時は具体的に】
「朝イチ」「午後イチ」「昼から」「昨日/今日」「今週中」「早いうちに」「いくつか」「末日までに」→すべて具体的な数字・日付にする(日付には時刻も入れる)

【語尾をソフトに】
文末は「~です。」とマル(句点)で終わるより、「~ですね。」「~です!」のほうがソフトでフレンドリー
(『伝え方が9割 』にも同じようなこと書いてあった)

士業のウェブ文章の書き方にもページが割いてありました。このへんも基本的なことがらはおさえてありますが、詳しく知りたければウェブマーケティングの本などを読めばいいでしょう。

なお、著者は『誰も教えてくれなかった公務員の文章・メール術』『悩まず書ける!伝わる! 公務員のSNS・文章術』という本も書いています。役所の人は(あるいは役所の人のことが知りたい士業の人は)こっちも読んでみては。

文章のルール、校正、語の統一

先に「法令文」「公用文」「広報文」の違いのことを書きました。

「公用文」と「広報文」の規定についても触れられています。

役所へ出す文書についての詳細は『分かりやすい公用文の書き方』などを参考にする必要がありますが、この本だけでもある程度は役所文書への対応が可能でしょう。

また、役所文書だけでなく、お客さん向けの契約書、社内文書などの用語の選び方、統一にも役に立ちます(社労士なら就業規則作成とか)。

実務できっちりしたいなら、参考文献にあげられている『朝日新聞の用語の手引』『記者ハンドブック 新聞用字用語集』などをリファレンスにする必要がありますが、この本だけでも注意すべき点はおさえられますね。

一般的な敬語・文法の誤りについてもフォローされています。

  • 不遜な表現
  • タリタリ対応
  • ラ抜き言葉
  • レ足す言葉
  • イ抜き言葉
  • サ入れ言葉
  • ヲ入れ言葉
  • 幼稚な印象のくだけすぎた表現
  • 重言
  • 慣用句・表現・表記の誤用

上記に関しては、この本で一通りおさえるだけで十分でしょう。

ウェブサイトのコピーなどでこのへんの間違いがあると読む気が失せるし、依頼者は「この人一般常識に欠けてる?大丈夫?」と不安になるかもしれない。けっこう重要なポイントかもしれないですね。 

なお、文章の用語の統一は、校正ソフトを使ったり(フリーのものもある)Wordの校正機能を使うなどすればいいでしょう。

まとめ

士業(弁護士、司法書士、税理士、行政書士社会保険労務士、FP、宅建士など)のために、文章の難解な言い回しを平易にし、わかりやすくする技術が網羅されています。

文章を書く、メールを書く、あるいは契約書や就業規則などの文書を作る際に参考になる本です。

ただ、必携というよりは、考え方とメソッドを学んだらリファレンス(参考文献)を使って書くべきかもしれない。この本には最初におさえておくべきことがコンパクトにまとめられているので、そういう意味では有効有益な本です。

より突っ込んだことについて知りたくば、関連書籍にあたりましょう(この本は巻末の参考文献が充実しています)。

 

『お客様が集まる!士業のための文章術』
編著: 小田順子
目次
第1章 デキる士業の文章術
第2章 お客様が理解できる文章の書き方
第3章 わかりやすいメールで効率&好感度UP
第4章 問い合わせがアップするウェブ文章の書き方
第5章 士業なら知っておきたい文章のルール
付録 士業として使わないほうがよい言葉の言い換え集

単行本(ソフトカバー): 272ページ
出版社: 翔泳社 (2013/11/22)
言語: 日本語
ISBN-10: 4798133817
ISBN-13: 978-4798133812
発売日: 2013/11/22
商品パッケージの寸法: 21 x 15 x 1.5 cm