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書評 『「読まなくてもいい本」の読書案内 ――知の最前線を5日間で探検する』: お手軽に新しい知のパラダイムがわかる

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はじめに著者は、いま現在、世界にどれだけの数の書物が存在しているかを提示します。その数約1億3千万冊。しかも毎年その数は増え続けています。

その数がどれだけ多いかすぐにはイメージできないのですが、3日で1冊読むと、100万年かかる(!)くらい多い。

だから、読むべき本と読まなくてもいい本を分類し、優先順位の高い本を読もう、というのが本書の意図です。なにしろ時間は有限ですから。

「読まなくてもいい本」の選別方法

20世紀半ばからの半世紀で、複雑系、進化論、ゲーム理論脳科学などの分野で「知のビッグバン」とでも形容するほかない、とてつもなく大きな変化が起きた、と著者はいいます。

そして書物を「ビッグバン以前」と「ビッグバン以後」に分類し、ビッグバン以前の本は読書リストから(とりあえず)除外すべし、と説いています。ビッグバン以前の古いパラダイムで書かれた本をがんばって読んでも費用対効果に見合わないからです。

そして最新の「知の見取り図」を手に入れたら、古典も含め、自分の興味ある分野を読み進めていけばいい、と書いています。

ですから、本書では「読まなくてもいい本」が個別具体的に挙げられてはいません。
新しい「知のパラダイム」がわかれば、既存の「読まなきゃいけないリスト」から、もはや用済みの書物をガンガン削除できるからです。

本書に書かれていること

本書では、下記の学問分野において20世紀半ば以降どのような進展がみられたかが、研究者の興味深いエピソードや具体的事例とともに記述されています。

ものすごくざっくりとまとめてみました。

複雑系】 

【進化論】 

  • 生物は子孫ではなく血縁度を最大化するよう行動する 
  • 社会生物学(進化生物学)の誕生 
  • 「合理的経済人」は前提としておかしいが、「合理的経済虫」はいたるところに存在 
  • ヒトのからだが進化によってつくられたのと同じように、わたしたちのこころや感情も進化によって生まれた 
  • 異なる生殖戦略を持つ男女は”利害関係”が一致しない 
  • 身体によくないものを食べすぎてしまうのは、原始時代に適応した身体のしくみのせい

ゲーム理論】 

脳科学】 

功利主義】 

「知の見取り図」の有用性

本書は「知の見取り図」たることを意図して書かれています。

とりあげられている事柄についてより詳しく知りたければ、章末のブックガイドを参照してくれ、というスタンス。

ですから、紹介されているそれぞれの学問分野について詳細な知見を得たいという人は想定読者ではない。そういう人は専門書を読みましょう。

高校生や大学生あるいはビジネスマンが、近年の人文科学/自然科学の進展により得られた成果を概観するための本ですね。

知的読み物としてとてもおもしろいです。

また、「知の見取り図」というのはとても有用だと思うんです。

複雑系、進化論、ゲーム理論脳科学功利主義、それぞれの分野について個別に知りたいと思ったときは、ググるなり本を探すなりして詳しく調べることはわりと容易です。

ですが、素人・門外漢がそれぞれの関係や互いに与えている影響まで理解するのは簡単ではない。時間がかかりますしね。

こういうことは、知っている人が俯瞰してザザッと書いたラフスケッチのようなものを提示してくれると効率的です。

まさに本書――「知の見取り図」というのがそれで、てっとり早く全体像を把握できる。

こと学問分野において「インスタントな知識、付け焼き刃はダメだ。古典を精読して思索しろ!」って人が出てくるんですが、研究者ならともかくほかにやることがある人はそんな時間ないですからね。

で、インスタントな知識が全然ダメかというとそんなことなくて。

例えば、自動車を運転する人の多くは、エンジンとかトランスミッションの詳しい構造を理解していません。でも問題なくクルマに乗れています。

一般的なドライバーは自動車の詳細な構造までは理解していませんが「自動車はガソリンを燃焼させてその爆発力で動く」ことくらいはわかっています。「運転手の走りたいという強い念がタイヤに伝わってクルマを駆動させている」なんて思っている人はいません。

ようは、大まかな構造と原理をだいたいにおいて正確な方向性で理解し、現実に活かしていくことが大切ということです。そのときあまり細部にこだわっても意味がない。

新しいパラダイムと古いパラダイム

ここであげた、「大まかな構造と原理を理解」する世界の見かた、をパラダイムと言い換えることができるでしょう。

著者は「知のビッグバン」がおき、知のパラダイムが転換したといいます。

また同時に、進化生物学的にヒトは現代の生活に適応できていない――原始時代の生活に最適化しているから――ともいっています。

これはつまり、ヒトは意識的に新しいパラダイムで世界を捉えようとしない限り古いパラダイムで物事を理解しがち、ということです。

例えば、本書の複雑系の章に書かれていたマンデルブロの世界観。

「世界は複雑系である。発生する事象を確率論的に捉えることができるのはそのなかの一部である。さらにものごとを決定論(因果論)的に把握できるのはそのなかの一部である」とぼくはその世界観を理解しました。

まわりを見回してみると、できごとを決定論(因果論)的にしか判断できない人がものすごく多いように感じます。でもしょうがないんですよね。複雑系的・確率論的にものをみるには訓練が必要。直感的にはできない。

だから「数百年に一度の洪水に備えてスーパー堤防を作るなんて税金の無駄」といって事業仕分けしてしまう。で、大津波がおきると今度はムダに高い防潮堤を延々と整備してしまう。自然災害なのに、亡くなった人の遺族は誰かしら責任をなすりつけることができる人を探し、訴訟をおこす。

リスクの概念だったり、世の中でおきることは必ずしもわかりやすい因果関係があるわけではない、ということに意識的でないからこういうことになってしまうんですよね。

ぼくたちがよりよい社会を実現していく――そこまで大上段に構えなくても、ひとりひとりがよりよく生きていくためには(たとえばビジネスで成功を収めるとか)、新しい知のパラダイムで世界を認識することは、ひじょうに有用なことだと思います。

同時に、旧来の古いパラダイムで世界を理解している人が多数派である、ということも承知しておかなければならない。普通に生きていたらそれが自然なことなので。たとえば「地球は丸い」って、本で読んだり人から教わったりしなければ一般人はそんなことに思い至らないです。

古いパラダイムで世界を見ている人たちを啓蒙する必要もないと思います。別に新しいパラダイムが古いパラダイムより正しいということもないし。古いパラダイムの人からみれば、新しいパラダイムは非人間的に映るでしょう。

同じ世界でも多種多様な解釈の仕方がありうるのだから、さまざまな世界観がありうることを想像するイマジネーションと寛容さが必要なのだと思います。もちろん自分のなかに確固たる世界解釈の基準をもうけ、それにしたがって行動することは大事ですが。

本書は、新しいパラダイムというか、学問的に進んだ世界の見方――もちろん絶対的に正しい真理ではなく、いくつかとりうべき世界観のひとつです――をてっとり早く取り入れることの助けになる、有益な本だと思います。

「読まなくてもいい本」の読書案内 ――知の最前線を5日間で探検する

目次
1 複雑系
一九七〇年代のロックスター
フラクタル」への大旅行
世界の根本法則
2 進化論
一〇分でわかる「現代の進化論」
「政治」と「科学」の文化戦争
原始人のこころで二一世紀を生きる
3 ゲーム理論
合理性とMAD
「行動ゲーム理論」は世界の統一理論か?
統計学ビッグデータ
4 脳科学
哲学はこれまでなにをやってきたのか?
フロイトの大間違い
「自由」はどこにある?
5 功利主義
「格差」のある明るい社会
社会をデザインする
テクノロジーのユートピア

登録情報
単行本(ソフトカバー): 320ページ
出版社: 筑摩書房 (2015/11/26)
言語: 日本語
ISBN-10: 4480816798
ISBN-13: 978-4480816795
発売日: 2015/11/26
商品パッケージの寸法: 19.4 x 13.2 x 2.4 cm

書評『アイデア大全――創造力とブレイクスルーを生み出す42のツール』:すべてのビジネスマン・クリエイター必読! 42の発想法を網羅した実用書であり人文書

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本書では、42種類の発想法(アイデアを生む方法)が紹介されています。

仕事、研究、創作、研究…とにかくアイデアを出す必要に迫られている人は必読。

この本に載っている発想法を知っているか知らないか/使えるか使えないかで、知的作業の質・量・効率が全然違ってくるでしょう。

まえがきに「本書は実用書であると同時に人文書である」との記述がありますが、実用書として非常に役に立ち、かつ人文書として読みごたえのあるたいへん素晴らしい本だと思います。

実用書として

本書に載っている発想法は、読んだらすぐに実践できるようになっています。

それぞれの発想法について、以下のことが記載されています。

  • 難易度
  • 開発者
  • 参考文献
  • 用途と用例
  • レシピ(それぞれの発想法の具体的なやり方)
  • サンプル(実例、具体例)
  • レビュー(発想法が生まれた歴史的・思想的背景や他の発想法との関連など)

42の発想法が「0 から 1 へ」(自分に尋ねる/偶然を読む/問題を察知する/問題を分析する/仮定を疑う)「1から複数へ」(視点を変える/組み合わせる/矛盾から考える/アナロジーで考える/パラフレーズする/待ち受ける)のカテゴリーに分類されています。

目次からすぐに自分の使いたい発想法を探すことができます。

レシピを読めばとりあえず試すことができるので、とにかく実践のハードルが低い。

発想法はいくら方法だけ知っていてもダメで、実際に使えないと意味が無いわけですが、本書はすぐに行動に移せるようになっている。非常に使い勝手がいい本だと思います。

人文書として

本書は、ただ発想法を列挙しただけの本ではありません。

それぞれの発想法が生まれてきた歴史的・思想的背景や心理プロセスにまで踏み込んでいます。

これまでの「発想法本」は、著者が考えた発想法だけにフォーカスしているとか、ビジネス分野/学術分野の一方だけに偏っていたりだとか、あまり発想法同士の関連性・つながりについては省みられなかったものばかりだったように思います。

対して本書は、創造性開発の分野だけでなく、科学技術、芸術、文学、哲学、心理療法、宗教、呪術など多くの分野から発想法を収集。それぞれのかかわり・類似性についても記述されています。

また、それぞれの発想法について詳しく知りたい、深掘りしたいときの、詳細情報をたどるための取っ掛かりがとても多い。

発想法の開発者やレビューが充実しており、例えば「いつ・どこで・誰が・何を・どのように」と自問する方法の呼称が「キプリング・メソッド」である、といった記述がそこかしこにあるので、今まで名付け得なかった概念の名前がわかる→ググれる、といった具合に自分の知識領域を広げるトリガーがふんだんに盛り込まれています。

参考文献リストも非常に充実していますし、アイデア史年表も巻末にあるのでリファレンスとしてもとても秀逸です。

発想法の生まれた背景や開発者の逸話など、単純に知的な読み物として楽しく読めますね。通読してもすごく面白い。

凡人にも創造はできる

世間一般では「新しいことを想像する=天賦の才に恵まれたクリエイターの営為」という思い込みが無意識のうちに信じられているように思います。

確かにそういった側面があるのは否定はできません。「エジソンだから新しい発明を量産できた」「ショートショートをたくさん生み出せたのは星新一だから」――それはそうなんですが、凡人が発想力に乏しいのは、発想する「技術」を知らないし、そもそも発想はテクニックによるところが大きいということに思い至っていないからなのかもしれない。

この本にはそれぞれの発想法が活かされた実例が数多く紹介されています。エジソンの発明やニュートンのひらめき、はてはポール・マッカートニーが「イエスタディ」を生み出したプロセスまで、発想のメソッドとして整理分類されている。

素人凡人がゼロからなにかを始めるのは非常に困難で、あらゆる分野で――研究でもビジネスでも――先輩や先行者の蓄積してきたノウハウを利用して、いわば「他人の褌で相撲を取っているうちに、褌が自分にすっかり馴染んでくる」みたいなところがあると思うのですが、発想法にも同じことが言えるのではないか。発想・創造の分野でも、先人の知恵を使い、確立された思考様式を「パクる」ことで、独力ではたどり着くことが困難だった地点へのショートカットを手にすることができるのでは、と本書を読んで思い直した次第です。

まとめ

というわけで、本書は知的創造に携わるすべての人必携だと思います(そこまで大仰にいわなくても、アイデア出しをしなきゃいけない人は読んでおいて損はない)。

なにしろ発想法は知的作業に携わる人間のいわば武器なのですから、知ってる数が単純に多いだけでも他者の優位に立てるわけです。

本書を読めばすぐ実践できるから、試して自分(あるいは自分のおかれた状況・環境)にあった発想法をみつけ、カスタマイズしていけばいい。

類書というか、いろいろな発想法の本がこれまでに数多く出版されていますが、本書以外の書籍にはここまでの網羅性がないので、まず本書を読んでおけば問題ないかと。

本書を読んでより深く知りたくなったことがらについて、突っ込んでいけるように記述してあるのも親切です。

なお、本書の紙の色は最初から最後まですべて蛍光イエロー。Amazonのレビューでちらほら不満が見られますが、ぼくは好きです。適度に目に刺激があるというか、読むと少しリフレッシュできますね。


『アイデア大全――創造力とブレイクスルーを生み出す42のツール』

目次
まえがき 発想法は人間の知的営為の原点
第I部 0 から 1 へ
第1章 自分に尋ねる
第2章 偶然を読む
第3章 問題を察知する
第4章 問題を分析する
第5章 仮定を疑う

第II部 1から複数へ
第6章 視点を変える
第7章 組み合わせる
第8章 矛盾から考える
第9章 アナロジーで考える
第10章 パラフレーズする
第11章 待ち受ける

イデア史年表
索引

単行本: 336ページ
出版社: フォレスト出版 (2017/1/22)
言語: 日本語
ISBN-10: 4894517450
ISBN-13: 978-4894517455
発売日: 2017/1/22
商品パッケージの寸法: 21 x 14.8 x 2.5 cm

書評『お客様が集まる!士業のための文章術』:司法書士、税理士、行政書士、社会保険労務士…士業には文章力が必須

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昔に比べて届出が楽になった

インターネットのおかげで役所への届け出がとても簡単になりました。

かつては届け出をしようと思ったらまず様式を役所へ取りにいくところから始まっていたわけです。離れたところに住んでいるとそれだけでめちゃくちゃ面倒。

で、様式に必要なことを書いて役所に持っていくと、窓口の対応が感じ悪いことこのうえない。無駄に偉そうだった。登記所なんか素人が登記しにいくと「司法書士ついてないなら受けつけねえ、帰れ」とか普通に言ってたらしい(あくまで伝聞)。

 翻って現在ですが、本当にユーザーフレンドリーになったと思いますよ、役所。
各種様式はオンラインでダウンロードできるようになりましたし。なんなら電子申請でもOK。

 窓口の対応もだいぶ親切になったんじゃないでしょうか。

ぼくは以前(士業補助者時代)合同会社を設立したことがあるのですが、不明点を法務局の相談コーナーで何度か教えてもらって、独力で登記することができました。相談コーナーの相談員の方(おそらく60代後半の男性、法務局OBと思われる)がむちゃくちゃ親切で、司法書士に高額の費用払うのがバカらしくなるレベルでしたね。もちろんぼくが法人登記について事前に書籍やネットなどである程度知識を仕入れていたので相談がスムーズにいったというのもあるでしょうが。そのへんの労力が惜しいなら司法書士に頼んだほうがいいと思います。

(注:とはいうものの偉そうな役人はいまだに結構いるので要注意。嘘ついてきたり不勉強でいい加減なことを言ってくる人もけっこう見受けられる。感じが良い人はだいたい非常勤、非正規雇用職員だったりするのがね…)

なぜ士業に文章力が必要なのか?

 こういう状況ですから、士業(司法書士、税理士、行政書士社会保険労務士など)は、その存在意義が問われています。
ただ書類書いて出すだけなら、専門家に頼まなくたって自力でできてしまうわけですから。

 でも、いくら頑張れば自力でできるからといって、素人が届出書類作るのは手間と時間がかかる。本業がおろそかになりますし。

経験とノウハウのある専門職=士業にお願いしちゃったほうが結果的にお得、というケースが多いと思われます。

 そこで士業側としては「届出って簡単そうでいてけっこうややこしいですよ~」「わたしらにまかせちゃえば楽ですよ~」「速くて確実でメリットありありですよ~」とお客さんにわかりやすくプレゼンして仕事を確保したい。

 そこで必要になるのが文章力です。お客さんに自分を使ってもらうことのメリットをわかりやすく伝えなければならない。SNSや自分のウェブサイトで魅力的な文章を書かなくてはならない。

 また、そうして引っ張ってきたお客さんに対して、複雑難解なもろもろの制度をわかりやすく噛み砕いて説明しなくてはならない。

 さらに、届出書類は提出先の役所にとっても理解しやすいものでなくてはならない。役所は文書主義。依頼者の意図をわかりやすく文書に落とし込む文章力がここでも必要になります。

 このように、士業の仕事には文章力が必要不可欠といえるでしょう。

 しかし、だいたいにして士業の資格とるような人は(自分も含めて)営業力とかコミュニケーション力に問題があるケースが多い。

ということで、士業に必要な文章力をやしなうべく、この本を読んだ次第(いまは士業に従事してないけど、資格は持ってるし、開業資金さえ貯められれば…)。

士業の方にはもちろん、行政や福祉関係従事者にもおすすめ

この本は、士業(弁護士、司法書士、税理士、行政書士社会保険労務士、FP、宅建士が念頭におかれている)をメインの読者として想定しています。

士業以外でも「なんらかの知識を売っている」「難しいことを平易に知らせる」「役所に文書を出す必要がある」人にとっては有用な本ではないかと思います(行政、福祉関係の人など)。

士業に必要なのは「お客さんにわかりやすい文章」と「役所の人が理解しやすい文章」の2つの書き方

 この本では、士業には2つの文章を書く能力が必要と説かれています。

  • お客さんにわかりやすい文章
  • 役所の人が理解しやすい文章

お客さんにわかりやすい文章のテクニック

「お客さんにわかりやすい文章」の書き方については、以下のテクニックが紹介されています。

【漢字を減らす】
文章のなかの漢字の使用率を3~5割にする
(漢字使用率チェッカーも紹介されています)

【一文を短くする】
人間が短期的に情報を保持できる時間は3秒といわれている。
1秒間に読むことができるのは10~13字程度なので、一文は10~13字×3秒=30~39字を目安に。
(法律や制度の名称だけで30字近くになることもあるので、その場合は一文65字以内に収めたい)

【箇条書きの活用】
文中に「又は」「あるいは」「及び」「並びに」「~や、~」「~と、~」「~の場合は」「~のときは」「~については」の語がある場合や、複数の結果・数値が書かれている場合は、文を箇条書きにする。

【漢語調・文語調の表現をしない】
「申請日現在において」 → 「申請日現在、」に置き換える
「相続に係る手続き」 → 「相続の手続き」に置き換える
「午後3時より開始します」 → 「午後3時から開始します」に置き換える

【名詞に「する」をくっつけて動詞化した表現をしない】
「記載する」 → 「書く」に置き換える
「該当する」 → 「当てはまる」に置き換える
「割愛する」 → 「省く」に置き換える

また、文章構成は「起承転結」ではなく「序論・本論・結論」が推奨されています。

「パラグラフ・ライティング」と「1パラグラフ1トピックの原則」「PREP法」「6W3H1M」なども紹介されています。

PREP法

まず結論を提示し、本論の部分でその理由と具体的な例を挙げる文章構成法。文章を構成する4つの要素の頭文字をとったもの。

  • P : Point (結論)
  • R : Reason(理由)
  • E : Example(例示)または Episode(事例)
  • P : Point(結論)

 

6W3H1M

ビジネス文書で漏れなく情報を伝えるために記載すべき事項

6W

  1. When(いつ)
  2. Where(どこで)
  3. Who(誰が)
  4. What(何を)
  5. Whom(誰に)
  6. Why(どうして)

 

3H

  1. How(どのように)
  2. How much(いくら)
  3. How many(いくつ)

 

1M

  1. Message(相手にどうしてほしいのか)

役所の人が理解しやすい、使いやすい文章

「お客さんにわかりやすい文章」であれば、同時に「役所の人が理解しやすい文章」にもほぼなっているはずですが、さらに突っ込んだテクニックが書かれています。

【役所の「文書管理事務規程」に従う】
「文書管理事務規程」などに文書の記載方法が明記されていることが多いのでそれに従う。「法令による漢字使用等について」「公用文作成の要領」も参照。

【「お役所言葉」を使う】
「お役所言葉」(=行政特有の用語)はお客さん向けに使うべきではないが、役所に対しては積極的に使う。役所の人は慣れている。

【専門用語の説明を入れる】
「お役所言葉」とは逆に、役所の職員はお客さんの普段使っている専門用語については不案内なことが多い。注釈をつける。

この本では「法令文」「公用文」と「広報文」の違いについても触れています。

「法令文」「公用文」「広報文」を厳密に分類するのは難しいのですが、おおむね以下のようになります。

  • 法令文 : 憲法、法律、政令、省令
  • 公用文 : 条例、規則、規程、起案、通知
  • 広報文 : 市報・区報、チラシ・ポスター、ニュースリリース、公式サイト

公用文では「または」は「又は」、「もしくは」は「若しくは」と書くように規定されています。

しかし、広報文にはそのような規定はありません。「若しくは」より「もしくは」のほうが読みやすいし、わかりやすいですよね。

また、公用文では「届出」ですが、広報文では「届け出」と書いたほうが理解しやすいとされています。

「法令文」「公用文」「広報文」の違いを理解し、提出先や用途によって用語を使い分ければ役所の人に「こいつ、わかっているな」と思われるのでは。

著者は地方自治体(中野区役所)に勤務していたことがあり、このあたりの記述には非常に信頼がおけます。

士業のメールの書き方、ウェブ文章の書き方

メールの書き方についての記述もあります。

それこそビジネスメールの書き方については膨大な数の書籍が出版されていますので、そちらをあたれば済んでしまうのですが、この本でも必要なことは網羅されています。
「Re:をいくつまでなら許容するか」とか「メールの自動振り分け」とかは、まあググれば必要な知識は得られてしまうのですが。

【タイトルは具体的に】
「運用利率の規制改定について」 → 「運用利率が1.5%から1.0%に」のように具体的に
「~について」「~に関して」「~の件」はすべて具体的に書き直す

【こちらから選択肢を提示】
予定を合わせるとき、アポイントメントをとるときは「いつがいいですか?」ではなくこちらからいくつか具体的な日時を提示する

【日時は具体的に】
「朝イチ」「午後イチ」「昼から」「昨日/今日」「今週中」「早いうちに」「いくつか」「末日までに」→すべて具体的な数字・日付にする(日付には時刻も入れる)

【語尾をソフトに】
文末は「~です。」とマル(句点)で終わるより、「~ですね。」「~です!」のほうがソフトでフレンドリー
(『伝え方が9割 』にも同じようなこと書いてあった)

士業のウェブ文章の書き方にもページが割いてありました。このへんも基本的なことがらはおさえてありますが、詳しく知りたければウェブマーケティングの本などを読めばいいでしょう。

なお、著者は『誰も教えてくれなかった公務員の文章・メール術』『悩まず書ける!伝わる! 公務員のSNS・文章術』という本も書いています。役所の人は(あるいは役所の人のことが知りたい士業の人は)こっちも読んでみては。

文章のルール、校正、語の統一

先に「法令文」「公用文」「広報文」の違いのことを書きました。

「公用文」と「広報文」の規定についても触れられています。

役所へ出す文書についての詳細は『分かりやすい公用文の書き方』などを参考にする必要がありますが、この本だけでもある程度は役所文書への対応が可能でしょう。

また、役所文書だけでなく、お客さん向けの契約書、社内文書などの用語の選び方、統一にも役に立ちます(社労士なら就業規則作成とか)。

実務できっちりしたいなら、参考文献にあげられている『朝日新聞の用語の手引』『記者ハンドブック 新聞用字用語集』などをリファレンスにする必要がありますが、この本だけでも注意すべき点はおさえられますね。

一般的な敬語・文法の誤りについてもフォローされています。

  • 不遜な表現
  • タリタリ対応
  • ラ抜き言葉
  • レ足す言葉
  • イ抜き言葉
  • サ入れ言葉
  • ヲ入れ言葉
  • 幼稚な印象のくだけすぎた表現
  • 重言
  • 慣用句・表現・表記の誤用

上記に関しては、この本で一通りおさえるだけで十分でしょう。

ウェブサイトのコピーなどでこのへんの間違いがあると読む気が失せるし、依頼者は「この人一般常識に欠けてる?大丈夫?」と不安になるかもしれない。けっこう重要なポイントかもしれないですね。 

なお、文章の用語の統一は、校正ソフトを使ったり(フリーのものもある)Wordの校正機能を使うなどすればいいでしょう。

まとめ

士業(弁護士、司法書士、税理士、行政書士社会保険労務士、FP、宅建士など)のために、文章の難解な言い回しを平易にし、わかりやすくする技術が網羅されています。

文章を書く、メールを書く、あるいは契約書や就業規則などの文書を作る際に参考になる本です。

ただ、必携というよりは、考え方とメソッドを学んだらリファレンス(参考文献)を使って書くべきかもしれない。この本には最初におさえておくべきことがコンパクトにまとめられているので、そういう意味では有効有益な本です。

より突っ込んだことについて知りたくば、関連書籍にあたりましょう(この本は巻末の参考文献が充実しています)。

 

『お客様が集まる!士業のための文章術』
編著: 小田順子
目次
第1章 デキる士業の文章術
第2章 お客様が理解できる文章の書き方
第3章 わかりやすいメールで効率&好感度UP
第4章 問い合わせがアップするウェブ文章の書き方
第5章 士業なら知っておきたい文章のルール
付録 士業として使わないほうがよい言葉の言い換え集

単行本(ソフトカバー): 272ページ
出版社: 翔泳社 (2013/11/22)
言語: 日本語
ISBN-10: 4798133817
ISBN-13: 978-4798133812
発売日: 2013/11/22
商品パッケージの寸法: 21 x 15 x 1.5 cm